退院――普通の生活に戻るということ #25
2026.10.05

生着が確認され、白血球も戻ってきました。
自分の造血幹細胞が、もう一度ちゃんと働き始めた。
そのことが分かった時は、本当にうれしかった。
そして、いよいよ退院が見えてきました。
長かった入院生活。
大量の抗がん剤。
前処置。
移植。
生着。
ここまで来て、ようやく病院を出られる。
当然、うれしかったです。
でも同時に、
「退院したら、もう元通りなのか。」
と言えば、そんなことはありませんでした。
退院はゴールではなかった
病院にいる間は、
先生がいる。
看護師さんがいる。
毎日、採血もしてもらえる。
何かあればすぐに診てもらえる。
でも退院すれば、
今度は自分で生活していかなければなりません。
それまで当たり前だったことが、
当たり前ではなくなっていました。
歩く。
食べる。
眠る。
外に出る。
人に会う。
仕事をする。
どれも、少しずつ取り戻していく必要がありました。
退院した瞬間、
「治療は終わった。」
というより、
「ここから日常生活に戻る治療が始まる。」
そんな感覚でした。
体力は思っていた以上に落ちていた
自分では、
「退院できるくらいだから、もうかなり戻っているだろう。」
と思っていました。
でも、実際は違いました。
少し歩くだけで疲れる。
思った以上に身体が重い。
以前なら何ともなかったことが、
簡単ではなくなっていました。
入院中はベッドで過ごす時間も長く、
体力も筋力も落ちています。
それに加えて、
大量の抗がん剤治療を受けた身体です。
頭では分かっていましたが、
退院して実際に生活を始めると、
「こんなに体力が落ちていたんだ。」
と実感しました。
「普通に生活する」ことが目標になった
病気になる前なら、
「普通に生活する」
なんて目標にしたことはありませんでした。
朝起きる。
着替える。
食事をする。
外に出る。
仕事に行く。
人に会う。
家に帰る。
そんなことは、できて当たり前でした。
でも移植を経験してからは、
その一つ一つが、
「戻ってきた。」
と感じる出来事になりました。
昨日より少し歩けた。
今日は少し食べられた。
前より疲れなくなった。
そういう小さな変化が、
本当にうれしかった。
仕事に戻りたい
私にとって、
仕事は生活の一部です。
だから退院が決まった時から、
「早く仕事に戻りたい。」
という気持ちはありました。
もちろん、
すぐに以前と同じように働けるわけではありません。
身体と相談しながら、
少しずつ戻していく。
無理をしない。
疲れたら休む。
頭ではそう分かっていても、
気持ちは先に進みます。
「もう大丈夫だろう。」
「これくらいできるだろう。」
つい、そう思ってしまう。
でも、身体は正直です。
無理をすれば疲れる。
だから、
以前の自分に一気に戻ろうとしないこと。
これも大事なんだと感じました。
病院を出て、初めて分かる不安
退院できるのはうれしい。
でも病院を出ると、
別の不安も出てきます。
感染症は大丈夫か。
また熱が出たらどうするか。
血液の数値は大丈夫か。
再発しないか。
少し体調が悪いだけで、
「何か起きたのではないか。」
と思ってしまうこともあります。
一度大きな病気を経験すると、
身体のちょっとした変化に敏感になります。
でも、
ずっと不安の中で生きるわけにもいきません。
だから私は、
「気をつける。でも怖がりすぎない。」
そう考えるようにしました。
生きることから、生活することへ
入院中は、
とにかく治療を受けること。
生きること。
それが一番の目標でした。
でも退院してからは、
そこにもう一つ加わりました。
「どう生活するか。」
です。
ただ生きているだけではなく、
仕事をする。
家族と過ごす。
外に出る。
好きなことをする。
少しずつ、
自分らしい生活を取り戻す。
それが次の目標になりました。
普通の日常が、一番ありがたい
病気になる前、
普通の日常のありがたさなんて、
あまり考えたことはありませんでした。
でも、
移植まで経験すると、
考え方が変わります。
朝、自分で起きられる。
外の空気を吸える。
人と話せる。
仕事ができる。
家に帰れる。
それだけで、
「ありがたいな。」
と思うようになりました。
何か特別なことではありません。
むしろ、
特別ではない毎日。
その「普通」が、
実は一番ありがたいのだと思います。
退院は、次のスタートだった
退院できた時、
もちろんうれしかった。
でも、
本当の意味で元の生活に戻るには、
まだ時間が必要でした。
体力を戻す。
食事を戻す。
仕事に戻る。
生活のリズムを戻す。
そして、
気持ちも日常へ戻していく。
だから私にとって退院は、
ゴールではなく、新しいスタートでした。
治療のために生きる時間から、
もう一度、
自分の人生を生きる時間へ。
少しずつ戻っていく。
それが、退院後の私の目標になりました。



