移植の日――自分の幹細胞が身体に戻ってきた #23
2026.09.25

5日間にわたる前処置が終わりました。
大量の抗がん剤を連日入れ、私の身体は血液を作る力を大きく落としていました。
白血球。
赤血球。
血小板。
血液を作る力を一度、限界まで落としていく。
私の感覚では、
「一度、自分の身体をゼロに近い状態まで持っていく。」
そんな治療でした。
そして、いよいよその日が来ました。
自分の造血幹細胞を、自分の身体へ戻す日です。
「移植」と聞いて想像していたものとは違った
最初に「自家造血幹細胞移植」と聞いた時、
私はもっと大がかりなものを想像していました。
手術室に入る。
麻酔をする。
何か特別な手術をする。
そんなイメージでした。
ところが、実際の移植は違いました。
あらかじめ自分の身体から採取し、保存しておいた造血幹細胞を、点滴のような形で身体に戻していきます。
見た目だけなら、
「これが移植なのか?」
と思うほどでした。
でも、私にとっては特別な時間でした。
一度、自分の身体から外に出た自分自身の細胞が、
再び自分の中へ戻ってくる。
不思議な感覚でした。
「頼むから、働いてくれ」
私は自家移植を決める前から、ずっと不安を持っていました。
私は血液の病気である悪性リンパ腫になっています。
その自分自身から採取した幹細胞を戻して、
本当にもう一度、正常に血液を作れるのだろうか。
何度もそう考えました。
海外の幹細胞治療の話も聞いていました。
他人の造血幹細胞を使う方法についても考えました。
もし自分の幹細胞でうまくいかなければ、状況によっては別の選択肢もあると説明されていました。
弟や妹も、
「必要なら自分のものを使っていい。」
と言ってくれました。
それは本当にありがたかった。
でも私は、
できれば兄弟には頼りたくない。
まずは自分の細胞で復活したい。
そう思っていました。
だから、幹細胞が身体に戻っていく時、
心の中では、
「頼むから、ちゃんと働いてくれ。」
「もう一度、俺の血を作ってくれ。」
そう願っていました。
『はたらく細胞』を思い出した
以前、映画の『はたらく細胞』を見ました。
それまで医師から何度説明を聞いても、造血幹細胞移植という治療を完全にはイメージできませんでした。
でも映画を見たことで、
血液の中にはいろいろな細胞がいて、
それぞれが自分の身体を守るために働いている。
そんな世界をイメージできるようになりました。
だから移植の日も、
自分の幹細胞が身体の中へ戻っていくのを見ながら、
「今から、この細胞たちがまた働き始めるんだ。」
そんなことを考えていました。
映像や漫画というものはすごい。
難しい医学の説明が、急に自分の中で形になる。
この時、改めてそう感じました。
でも、移植した瞬間に治るわけではない
幹細胞を身体に戻したからといって、
その瞬間に元気になるわけではありません。
むしろ問題は、ここからでした。
前処置によって身体は大きなダメージを受けています。
血液の数値も低い。
免疫も非常に弱い。
感染症にも気をつけなければならない。
そして、戻した幹細胞が骨髄に根付き、
再び血液を作り始めるまで待たなければなりません。
つまり、
移植はゴールではなく、再スタートでした。
毎日の採血が気になった
移植後は、毎日のように血液の数値が気になりました。
白血球はどうなった。
血小板はどうなった。
赤血球はどうなった。
まだ上がらない。
今日はどうだ。
少し上がったか。
これまでの人生で、こんなに自分の血液検査の数字を気にしたことはありません。
その数字が、
「自分の身体がもう一度動き始めているかどうか」
を教えてくれるからです。
前処置では、数字が下がることを見ていました。
今度は逆です。
上がってくるのを待つ。
それがこんなにも長く感じるものなのかと思いました。
自分では何もできない
ここまで来ると、自分でできることは多くありません。
先生も看護師さんも、必要なことをしてくれる。
私はベッドの上で待つ。
そして、
自分の身体が回復するのを信じる。
仕事なら、自分で動けば何かが変わることもあります。
経営なら、判断して動くこともできる。
でもこの時ばかりは違いました。
自分の身体に、
「頑張れ。」
と願うしかありません。
それは私にとって、もどかしい時間でもありました。
「自分の細胞に賭ける」と決めた日
私は最初、自家移植に疑問を持っていました。
「病気になった自分の幹細胞で、本当に大丈夫なのか。」
そう思っていた人間です。
でも最後には、
先生を信じて、
治療を信じて、
そして自分の細胞を信じることにしました。
あれだけ疑っていた自分の幹細胞に、
最後は自分の命を託した。
考えてみれば、不思議なものです。
でも、
自分の身体を再生してくれる可能性があるのも、自分自身の細胞だった。
そのことを、この治療を通して強く感じました。
あとは「生着」を待つ
移植が終わってから、
次の目標は一つでした。
「生着」
です。
戻した造血幹細胞が骨髄で働き始め、
再び血液を作り始める。
その時を待つ。
しかし、その前に私は、
血液の数値が最も低くなる時期を迎えます。
身体はどうなったのか。
何が一番つらかったのか。
そして、
自分の幹細胞が本当に働き始めたと分かった瞬間。



