こんにちは。がん治療研究者の岸本です。
カロリー制限の話のように、思っていたことと実は違うということはよくあります。
例えば、がん治療でよく聞く効果判定用語、奏効。
完全奏効・部分奏効とあるので、完全奏効は治った状態、部分奏効は効果はあるがまだがん細胞が残っている状態だと何となく思われるかもしれませんが、詳しくは
完全奏効:腫瘍マーカー検査、画像検査、血液検査など各種検査でがんの兆候が検出できなくなる
部分奏効:治療に対する反応で全てのがんは消失しなかったけど、治療前に比べてがんの大きさが縮小した状態が、ある一定期間継続すること
という意味であり、完全奏効は必ずしも完治したことを示すものではありません。もちろん、完治している場合も多くあります。
完治している人は良いですが、それは誰にも分からず検出できないだけで、まだがん細胞が残っている可能性を考える必要があると思います。
従って完治している人もそうでない人も、栄養バランスの良い食事をとり、十分な睡眠と休息をとるなどして自身の免疫力を高めることで再発を防ぐ努力をするという心構えが必要です。
今回は、今やがん治療薬の主流となっている 分子標的薬 のお話をしようと思います。 分子標的薬の登場は、がん治療に携わる者にとって非常に衝撃的な出来事でした。
分子標的薬とは、その名の通り、ある特定の分子(主にタンパク質)のみを標的とし攻撃し無効化する薬であり、その分子ががん細胞のみに存在し、がん細胞の生存にとって必須であればがんは死滅する、正常細胞は影響を受けない、というコンセプトを持った薬です。
従って、副作用は起こらない夢の薬だと騒がれ、そのような中で登場したのが分子標的薬の肺がん治療薬「イレッサ」でした。
その名はご存じの方も多いかと思います、悪い意味で。
それまでのがん治療薬というのは、いわゆる細胞障害性抗がん剤と言われ、遺伝子の合成を阻害したり細胞の増殖を抑制するものでした。
しかし、遺伝子合成や細胞増殖は何もがん細胞だけでなく正常細胞も行います。
従って、細胞障害性抗がん剤は正常細胞にもダメージを与えてしまいますが、その治療コンセプトは、「正常細胞よりもがん細胞の方が数多く遺伝子を合成し激しく増殖するから、がん細胞の方がたくさんダメージを受ける」というものでした。 そのような理由であるから、がん細胞ほどではないがよく増殖する正常細胞、例えば血球細胞(骨髄抑制の原因)や毛根細胞(脱毛の原因)、消化管細胞(下痢の原因)に副作用が現れてしまいます。
分子標的薬の肺がん治療薬「イレッサ」
副作用のない夢の抗がん剤であるにもかかわらず、間質性肺炎など命に関わる副作用がどんどん出て死亡者が続出し、訴訟事件にも発展しました。
なぜそのようなことが起こったのでしょうか?
理由は2つ。
1つは、分子標的薬はそのメカニズムから言って副作用は起こらないという人間の思い上がり、もう1つは処方した医師の無知・無能でした。
もしかしたらこれを読んでいる方の中で、お医者さんかまたはその関係者がいるかも知れませんが、ことイレッサ事件に関しては無知・無能と言われても仕方がないと受け入れてもらえると思います。
さて何が起こったのでしょうか?
次回イレッサ事件について詳しくお話しします。