前処置――身体から血液を作る力が消えていく #22
2026.09.19

11月21日。
この日から、自家造血幹細胞移植に向けた前処置が始まりました。
前処置。
言葉だけ聞くと、移植の「準備」のように聞こえます。
でも、実際はそんな軽いものではありません。
私が受けた前処置は、
大量の抗がん剤を5日間連続で身体に入れる治療
でした。
ここからが、本当の意味で自家移植の治療が始まったのだと思います。
5日間連続で、大量の抗がん剤を入れる
これまでにも、私は何度も抗がん剤治療を受けてきました。
でも今回の前処置は、意味が違いました。
がんを小さくするだけではありません。
身体の中に残っているがん細胞をできる限り叩きながら、
骨髄の造血機能そのものを大きく落としていく。
白血球。
赤血球。
血小板。
血液を構成する細胞が、どんどん減っていきます。
私の感覚では、
「一度、自分の血液を壊して、ほぼゼロの状態まで持っていく。」
そんな治療でした。
もちろん、医学的には血液そのものが完全にゼロになるわけではありません。
ただ、血液を作る力は極端に落ち、血球も非常に少ない状態になります。
その先に、保存しておいた自分自身の造血幹細胞を戻す。
つまり、
一度、身体の造血機能を底まで落としてから、もう一度血液を作り直す。
それが、私が受けた自家造血幹細胞移植でした。
1日目、2日目、3日目……
前処置は5日間続きました。
1日目。
2日目。
3日目。
4日目。
5日目。
毎日、大量の抗がん剤が身体に入ってきます。
当然、身体への負担は大きい。
治療を受けながら、
「これで本当に自分は戻ってこられるのか。」
という不安もありました。
でも、ここまで来たら進むしかありません。
抗がん剤を4クール受け、脳腫瘍はかなり縮小しました。
先生も、移植に進むための手応えを感じていた。
だから私は、
「ここまで来たんだから、最後までやる。」
そう腹を決めていました。
数字が下がっていく
前処置が進むにつれて、血液の数値は下がっていきます。
白血球。
血小板。
赤血球。
普段なら、血液検査の数値が下がれば心配になります。
でも、この治療では、
下がることそのものが治療の過程でした。
それでも、自分の検査結果を見ながら、
「また下がった。」
「まだ下がるのか。」
と思う。
頭では分かっていても、気持ちは別です。
自分の身体から、血液を作る力がなくなっていく。
そんな感覚でした。
「ゼロにする」と聞いて怖くないはずがない
移植の説明を受けた時、
「大量の抗がん剤を使って、血液を作る力を一度極端に落とします。」
と聞きました。
それを自分なりに理解すると、
「一度、自分の血液をゼロに近いところまで落とす。」
ということです。
怖くないはずがありません。
人間は血液がなければ生きられない。
その血液を作る力を、治療のために意図的に落とす。
普通に考えれば、とても怖いことです。
でも、その先には、
あらかじめ自分の身体から採取して保存しておいた造血幹細胞があります。
それを戻すことで、
もう一度、身体の中で血液を作り始めてもらう。
そこまでが一つの治療です。
「本当に自分の幹細胞で戻れるのか」
私は自家移植を決める時から、ずっと一つの不安を持っていました。
私は血液の病気である悪性リンパ腫になった人間です。
その自分から採った幹細胞を、また自分に戻す。
「本当にそれで、新しい血液を作れるのだろうか。」
という疑問です。
前処置が始まり、血液の数値が実際に下がっていくほど、その気持ちは強くなりました。
でも、もう自分で決めた治療です。
先生を信じる。
治療を信じる。
そして最後は、
自分の身体を信じる。
それしかありませんでした。
病気を治すために、いったん身体を弱らせる
自家移植という治療を経験して、私は不思議だと思いました。
病気を治すために、
まず身体を徹底的に弱らせる。
免疫も下がる。
血液を作る力も下がる。
感染症にも弱くなる。
元気になるために、一度、身体を底まで落とす。
私は、
「一度、底まで落ちて、そこからもう一度上がる治療なんだ。」
そんなふうに考えていました。
だからこそ、その後に戻す幹細胞が重要になります。
「ちゃんと働いてくれ。」
まだ身体に戻してもいない自分の幹細胞に、
そんなことを思っていました。
5日間が終わった
そして、5日間の前処置が終わりました。
大量の抗がん剤を毎日入れ続ける治療が終わった。
でも、
ここで治療が終わったわけではありません。
むしろ、本当の意味ではここからでした。
血液を作る力は極端に落ちている。
身体は弱っている。
その状態で、いよいよ保存しておいた自分自身の造血幹細胞を戻します。
ずっと不安に思っていた自分の細胞が、
本当にもう一度、自分の身体の中で働いてくれるのか。
それを確かめる時が来ました。



